追憶の旅

風波に揺られる船上から 碧い地平線を眼差すとき

見上げた滴る山々の向こうを たなびく雲が横切るとき

見知らぬ貌とすれ違う雑踏に いのちの昂ぶりと孤独を感じるとき

覗いた薄暗い路地の奥に いまここではないいつかのどこかを垣間見るとき

細胞が膨らむ

無声の声が響く

記憶の底の底と目の前の風景がひとつになる

風景を生き 風景に生かされる

大地に根を張ることと旅することが出逢う場所で

踏みしめて歩むことと宙に祈ることが等しくなる場所で

探すのではなく探ること 確かめるのではなく試みることのなかで

見たことのない見えるもののなかに 見たことのある見えないものを見つめるために

物語るよりも黙してあるものとともに

マントルと岩盤が海を山を野を震わせても

雨は枝葉を鳴らし

鳥は空を渡り

牛は草を食み

人は火を熾す

思い出すことは生まれなおすことであり

懐かしさは言葉と同じ彼方から湧き出る

一投の旅がはじまり還る あの無窮の彼方

沈黙は流離う

あなたの沈黙に手を伸ばして

『MELE ARCHIPELAGO』(2019) より          

© 2020  Tatsuki Shirai

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